現在放送中の『べっぴんさん』をはじめ、最近の朝ドラには、ある傾向が見受けられます。それは、あまり知られていない企業経営者(もしくはその妻)をヒロインに据えている点。


たとえば、『べっぴんさん』におけるヒロイン・坂東すみれのモデルは、アパレルメーカーファミリア創業者の一人・坂野惇子であるし、その前の『とと姉ちゃん』は、『暮しの手帖』の出版元『暮しの手帖社』の創業者・大橋鎭子、そのもう一つ前の『あさが来た』は実業家で教育者の広岡浅子……。
他にも、『マッサン』(2014年後半)、『カーネーション』(2011年後半)なども、同系統の作品といえるでしょう。

こうした流れを生み出したのは、かつて社会現象にもなった、NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』の影響によるものではないかとの見方がされています。

社会現象になった『プロジェクトX』


『プロジェクトX~挑戦者たち~』が放送されたのは、2000年3月28日から2005年12月28日にかけて。
無名ではあるものの、後世に残る偉大な功績を残した人物を取り上げる内容が、主に団塊世代を中心に大ウケして、一大ブームとなったのはご存知の通り。

昨今の朝ドラヒロインが、「あの商品」「あの会社」を誕生させた実業家ばかりなのも、この『プロジェクトX』のヒットに味をしめたがゆえなのでは? というわけです。

中島みゆきが黒部ダムで熱唱…特に反響が大きかった作品


特に反響が大きかったのは、日本ビクターのVHS開発について取り上げた『窓際族が世界規格を作った~VHS・執念の逆転劇~』(放送2回目)と、黒部ダム建設を扱った「黒四ダム 断崖絶壁の難工事」(放送14回目)。

前者は2002年に『陽はまた昇る』として長編映画化。
後者は、紅白歌合戦において、中島みゆきが黒部ダム内部から番組主題歌の『地上の星』を歌唱するという、趣向を凝らした演出のモチーフとなりました。
また、田口トモロヲの特徴的ナレーションも人気を博し、よく物まねされたものです。

慢性的ネタ不足から生まれた? 事実の捏造


そんな大変な人気を誇った『プロジェクトX』ですが、番組後期はさすがに慢性的なネタ不足となります。確かに週に1人以上も「名もなき英雄」を探しださなければならないのだから、無理もないというもの。
しかしあろうことか、事実の捏造を行ったために、大問題となった放送回が存在しました。

問題になったのは、2005年5月10日放送の『ファイト!町工場に捧げる日本一の歌」。内容はざっとこんな感じです……。

舞台は、とある荒れた工業高校。そこへ新任の国語教員が赴任します。彼は合唱を通じて生徒を更生させるべく、他の職員の反対を押し切り、グリークラブ(男声合唱部)を設立。紆余曲折を経て、なんとか合唱コンクールに出場するも、彼らへ警戒心を示す主催者側により、コンクール会場にパトカーを配備される事態に……。

学校側から苦情…担当部長が『土曜スタジオパーク』で生謝罪


こうしたドラマチックなストーリーが放送されたわけですが、しかし、学校側が番組及びNHKに対し「事実と異なる点がある」として、異議申し立てをします。

何でも、そもそもこの工業高校は荒れてなどおらず、また、グリークラブ設立にも早くから校長が賛同しており、さらには、合唱コンクール参加時にパトカーを呼ばれてもいないとのこと。
演出の範疇というには、あまりにも大それた事実の改ざんではないでしょうか。

この指摘を受けてNHK側は、ただちに同年5月28日放送分の『土曜スタジオパーク』へ担当部長を送り込み、生出演&生謝罪させます。5月31日の『プロジェクトX』内でも、司会の国井雅比古アナが陳謝。
無論、この放送回はホームページや書籍にも載らない「幻の回」として、永久に封印されることと相成るのでした。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりプロジェクトX 挑戦者たち シリーズ黒四ダム 「秘境へのトンネル 地底の戦士たち」「絶壁に立つ巨大ダム 1千万人の激闘」 [DVD]